はじめに

ここからは本題の、「枠」とお習字教室の話を。

おそらく多くのお習字の先生方は枠について考えたことはないでしょうし、枠を意識しなくても上手く運営できている教室はいくらでもあると思います。ただ、いざ教室運営が上手く行かなくなってしまったら、もしくは新しくお習字教室を始めるうえでの指針が欲しい場合は、枠のことも念頭に入れていただけると上手く行く可能性もあるかもしれません。

枠の設定について

習字教室で私が考えている枠の設定について列挙してみたいと思います。

【最初と最後の挨拶】

学校の授業で起立礼着席といった挨拶を経験してきた方はとても多いと思いますが、あれは枠の観点からも非常に有効です。何かしらの挨拶をすることで、ここからは習字の授業なのだと気持ちを切り替える効果もあるでしょう。時間割を導入して開始時刻を全員一律に出来るのが良いとは思いますが、もしそれが難しくフリータイム制にする場合でも、一人一人の入室時に何か定型の挨拶を導入することが出来ればよいと思います。私の知り合いの先生は、和室のフリータイム制でしたが、最初に正座をして定型文の挨拶をしてから授業に入らせていました。ADHDのお子さんもいらっしゃいましたが、皆さん集中して書かれていたのが印象的でした。先生は無意識かもしれませんが、枠の観点からも非常に良いものだと感じました。

【毎回の最初にその日にやることを指示する】

これは、枠の問題だけではなく、発達障害傾向のあるお子さんへの対応としても非常に有効です(このあたりはいずれ書きたいと思います)。一般的なお子さんであれば、最初にプリントをやって、添削したらお清書をする、といったざっくりとした流れでも良いでしょう。

【終了時刻の設定と提示】

授業の終了時刻を伝えることも、時間的な枠の設定になります。慣れてきたお子さんは自分で終了時刻を把握していますが、不慣れなお子さんや発達障害傾向のあるお子さんには、口頭で伝えるだけでなく、紙や黒板などに書いて指示したほうが良いでしょう。また、低学年のうちは時計が読めない場合もありますので、「長い針が12にきたら終わり」などと伝えたり、終了時刻の時計の絵を描いたものを示したりすることも必要でしょう。

【決められた席に座る】

お子さんの中には、どうしても自分の希望の席に座りたい、仲良しのお友達とくっついていたいというケースも多く見られます。うるさい子や、以前意地悪をされた子のそばは嫌だという場合はある程度認めていますが、それ以外は、下敷きの置いてある席に座るというルールを設定しています。自由が増えると、枠が揺らぎ、お子さんの多動が出てきたり、集中しづらくなったりということが起こり得ます。

【ルーティンの設定】

たとえば、道具の準備など、毎回子どもが行うルーティンを設定するのが良いでしょう。最初は丁寧に教えますが、徐々に一人でできるように導いていければと思います。私の教室では、毎回最初に、箱から鉛筆3本と消しゴム1個を持ってくる、競書誌とファイルを持ってくる、下敷きのある席に座る、というルーティンを設定してます。

【他の子の成績や作品を悪く言わない】

特に低学年の上手なお子さんに多いですが、自分の方が上手く書けている、成績が良いと、いわゆるマウンティングのようなことをし始めるお子さんも見られます。言っている方はいいのですが、言われた方はひどく傷つく可能性もあります。私の教室では、他の子の作品に嫌なことを言わない、成績を馬鹿にしたり自慢したりしないというルールを作っています。これも枠の一つです。お子さんの中には、下手な字を書いて笑われたらどうしようと不安になっている場合も多く見られます。ここの教室では下手でも安心して書いていいのだと思えるようにルール設定をしています。

子どもの教室では上記のようなことを考えていますが、大人の場合でも枠の考え方が役立つ場合はあります。

たとえば、きちんと授業料を取ること、LINEや電話の相談についてはある程度回数制限を設けることなどによって、枠を設けることができます。指導者として不慣れなために無料で指導していますという先生の話も多く聞きますが、依存関係が生まれてしまったり、指導者側が金銭以外の見返り(お礼の言葉、生徒さんの上達など)を求めたりといった問題が起きている場合も少なくないようです。