最近、「左利きですが毛筆を習えますか?」「左利きから右利きに変えたいのですが教えてもらえますか」といったご相談が増えています。少し私見や当教室の指導についてまとめておきたいと思います。

よく聞かれる質問に、「毛筆は右手でないと書けないのではないか?」というものがあります。結論から申し上げると、右手に比べれば困難はあるものの左手でも十分に書くことはできます。私の知り合いにも、左手のまま硬筆も毛筆も上手に書かれる書道の先生はいらっしゃいます。

ご存じのように、歴史的には、左利きは「矯正」して右手書きに直すべきだとされてきました。近年では多様性の時代になり、左利きも個性の一つ、無理に右手書きに変更する必要はないとされるようになってきました。ただ、実際に左手で書こうとするとやや不都合もありますし、文化的に左利きを忌避する方もご高齢の方の中にはいらっしゃいます。一方で、無理に右手書きに変更することでストレスを感じる可能性が指摘されている他、利き手変更で左右盲が悪化するのではないかとする説もあります(諸説あります)。左利きのままでいることも、右利きに変更することも、どちらを選択してもメリット・デメリットはそれぞれあるようです。

当教室では、講師側から「右手で書かなければならない」「左利きは個性だから右手書きに変更するべきではない」といったことを強制することは一切ありません。利き手を変更するかどうかが検討されるのは、大抵幼児さんか、毛筆を習い始める小3頃の時期になるかと思います。まだメリット・デメリットをしっかり比較衡量して判断できる年齢ではありません。最終的にはご両親にしっかり判断していただく必要があるでしょう。その上で、左利きのまま書いてほしい、鉛筆も毛筆も右手書きに変更させたい、毛筆だけ、太筆だけ右手書きに変更したいなどと決めていただき、こちらはご家庭の方針に合わせて最良の方法で指導したいと考えています。

利き手変更を希望される場合、特に鉛筆の場合は3~4歳くらいで一度ご相談いただけるとありがたいです。このくらいの年齢は落ち着いてゆっくりたくさん字を書いてくれる段階ではないので、字の書き方を教えるというよりも、なるべくスムーズに利き手変更が出来るよう、ご家庭での指導法などを保護者の方にお教えする形のレッスンを取ります。お子さん本人が希望される場合は、小学校低学年くらいでも利き手変更の実績はありますが、就学後は学校でたくさん字を書くようになるため、できればその前には利き手変更をしておきたいところです。また、毛筆の太筆については、大人の方でも利き手を変更することは可能です。太筆は右手で、小筆と鉛筆は左手で、という方も多くいらっしゃいます。

 左利きのまますべての書字を行う場合は、いくつかの書字上の困難が発生します。よくある困難としては、

①教材が右利き用になっているため、左手で書こうとするとお手本が見えない。
②横画の右上がりが弱くなる。
③毛筆がスムーズに動かせない(特に右払いやハネ)。

などが挙げられます。

①について、当教室では特にお子さん向けのオリジナルの左利き用硬筆プリントを用意しています。当教室の小中学生は競書誌『学年習字』を利用して毎月の課題を学習しますが、当教室作成のオリジナルプリントを利用して練習を進めていきます。また、お名前の練習についても同様のプリントを一人一人に作成していますが、こちらも左利きの生徒さんについては左利き用にレイアウトしたものを用意しています。


「当教室作成の競書練習用プリント」

大人の方については、概ねすべての手本・プリント類について、右利きでも左利きでも問題ないレイアウトで作成しています。

②については、やや改善に時間がかかります。元々毛筆の大きな字を書く際には、右手の方がコンパスの針のようになって、円弧を描くように線を引くのが一番楽だとされています。そのため、図のように自然に右上がりの横画を書くことが出来ます。同じように左手で書こうとすると、左肩がコンパスの針になるので、どうしても右下がりの線を書くのが自然になります。とはいえ、書写書道においては、左手で書いたから右下がりの横画でも問題ないというものではありませんので、左手でも右上がりの横画を書けるような工夫が必要になります。具体的にはレッスンで指導いたしますが、紙の配置や、意識の変容で、このあたりの問題は解決できることが多いかと思います。

③については、筆の持ち方と椅子の座り方を少しアレンジすることで、体に負担がなくきちんとした運筆が出来るようになります。学習者さんの年齢や体格、毛筆でどんなものを書くのかによっても少しずつ異なりますので、詳しいことは実際にお会いして個別にカスタマイズするのが良いでしょう。  最近では、書写書道教育や臨床心理学など、様々な分野の先生や研究者の方から、左利きさんへの指導に関する知見が発表されています。保護者の方だけでは困難な場合も多いかと思いますし、実際にお会いしてみないとわからないことも多いので、是非一度無料の体験レッスンにお越しいただければと思います。