少しずつ指導法に関するご相談をいただく機会も増えてまいりました。
今回は、あくまでも一般論として、いくつかご回答したいと思います。
【ご質問】
発達に課題がありそうなお子さん(以下Aさん)と健常のお子さん(Bさん)が同一クラスにいる際に、Aさんでは許していることを、Bさんには叱ってしまうというような、ダブルスタンダードが生じてしまっている。このような場合はどちらに合わせていけばよいのか。
【回答】
これは、集団レッスン場面において頻繁に起こるジレンマの一つだと思います。
まず、Aさんへについては、特性を考慮した「合理的配慮」が必要となります。標準的な指導内容・方法・ルールでは困難や不適応が想定される場合、必要な配慮をすることになります。この合理的配慮というのは、おそらく多くの指導者の方が無意識に行っていらっしゃることでしょう。
本題の前に、「平等性」(Equality)と「公平性」(Equity)という2つの概念について説明します。「平等性」というのは、すべての子どもに同じ条件・手段で教育を提供することをいいます。一方の「公平性」は、個々の特性や事情に応じて対応することで、結果の平等性を目指すことをいいます。この2つの概念はしばしば混同されがちですが、実際には大きく異なる概念です。たとえば硬筆の指導において、筆圧の強めのお子さんには硬いBの鉛筆を、筆圧の弱めのお子さんには柔らかい6Bの鉛筆を使ってもらうということがあると思います。これは、結果的に同じ濃さで、負担なく美しい字を書けることを目指すための対応です。お子さんの筆圧などを考慮することなく同じ鉛筆を使わせるのは、平等ではあるけれど公平とは言えません。合理的配慮においては、このように公平性を目指した対応が行われます。
障害の診断が下りていないけれど不適応を起こしているお子さんについてはどう捉えたらいいか、という質問もよくいただきます。合理的配慮は、診断済みのお子さんに対してのみ行われるものではなく、すべてのお子さんに対して行われるものです。前述の鉛筆硬度の対応もそうですが、たとえば目が悪いから前の方の席にする、今日は疲れていそうだから簡単な課題のみにするといったことも、広義での合理的配慮と言えるでしょう。
前置きが長くなりましたが、ご質問のAさんとBさんの件について。結論としては、どちらかに合わせるというものではなく、個々の状況や特性に応じて対応していくのが良いという回答になります。
まず、Aさんについては必要な配慮をします。ただ、この配慮というのは、立ち歩いていることを許容するとか、暴力を振るっても叱らないということではありません。また、「Aさんには障害があるから仕方ないね」というものでもありません。たとえば、席替えをして前の方に座ってもらう、多少時間を短くする、大きなマス目の用紙を使う、聴覚情報処理が困難なお子さんであればやることリストを書いて渡すなど、他のお子さんに迷惑をかけたり、講師側が過度に負担を強いられたりすることがない範囲で対応することを指します。
Bさんの感じる不平等さについては、Bさんにとって配慮が必要な場面ではしっかり配慮をしていくことである程度解消できるでしょう。たとえば、前述のように、疲れているときにはBさんもレッスン時間を短めにすることや、各枚数を減らしたり、いつもより上手に書けなくても許容したりとか。自分も必要なときには配慮をしてもらえるのだという安心感があれば、Aさんばかり配慮してもらってずるいという不平等さを感じることは軽減できると思います。また、Bさんに対してやや高度な指摘が増えてしまうことについては、「Bさんは○級に上がれたから、次はこんなこともできるようになってみようね」などとポジティブに指摘をすることで、自分ばかり叱られた、自分ばかり厳しくされる、とBさんが不満を抱くことも少なくなるでしょう。両者に対しての褒める機会をしっかり増やしていくことで、誰でも頑張れば褒めてもらえるという、ポジティブな教室の雰囲気を作ることもできるでしょう。